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不器用な夫
第21章 会話
働きもせず、毎日を自分の気まぐれな研究の為だけに船に乗り釣りをする遊び人の様な祖父。
その祖父が唯一、船に乗せたのが父の母である祖母の存在だけだった。
祖父は父すら船には乗せない。
なのに祖母が他界し、僕が生まれると祖父はまたしても気まぐれに僕を船に乗せるようになった。
その祖父が祖母を追うようにして他界した後は、祖父が持ってたこの船とこの船を停留させる為だけに購入したマリーナの経営権を僕に残して逝った。
「だから…、ここには僕は1人でしか来た事がない。公平ですら連れて来た事がないんだ。」
船を沖合に進めながらハコにそれを教える。
「公平さんも?」
「そう…、僕がここに人を連れて来たのはハコが初めてだ。」
「なん…で…?」
「ハコが僕の妻だから…。僕の中ではハコが正式に国松の嫁だからかな。」
「ハコが?」
「ハコは違うの?」
「でも…、ハコはまだ子供を産んでないよ。」
「その子供を僕はハコとしか作る気がない。」
そこまで話すとハコが泣きそうな顔をする。
「嫌なのか?」
「ううん…、嬉しいの。」
ハコが僕に飛びついて来る。
「ハコっ!待って…、運転中は怖いからっ!」
不器用な僕は船の操縦だけで精一杯だ。
「ハコに出来る事はない?」
妻だから…。
夫婦としてハコも何かをやりたがる。
「停留してから手伝って欲しい。」
2人で何かをやりたかった。
僕は不器用で、新しい事をハコとやるのは難しいと考えたから僕が出来る事をハコに見せた。
ハコは僕の遊びを一緒に楽しんでくれる。
海の上なら誰にも邪魔をされない。
夫婦としてハコと過ごし夫婦としてハコと話し合う場所にここしか思い浮かばなかった。