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不器用な夫
第21章 会話
1時間ほど船を走らせて停留する。
陸が随分と小さくなった。
「ハコ…?」
振り返ればハコが情けない顔をする。
「お腹…、空いたの。」
もう9時を過ぎた。
「うん、遅くなってごめんね。すぐに朝食の用意をしよう。」
「船で?」
操縦室を出て船のデッキに出る。
夏だから、日差しが強い。
デッキに天幕を張りテーブルや椅子の用意をする。
「ハコはそのクーラーボックスから朝食を出してくれるかな?」
国松家から持って来た荷物。
サンドイッチやサラダ、丸くカットされたフルーツの盛り合わせ…。
「グラタンがある!?」
ハコが目を輝かす。
「船室に小さなキッチンがあるから、そこのオーブンで焼いて欲しい。」
そう頼めばハコが大きく頷いた。
その間に僕は幾つかのフルーツをグラスに入れサイダーを注ぎポンチを作る。
かなりの気温が上がりそうな陽気。
真っ青な空に深い蒼き姿を見せる海…。
果てが見えない水平線を静かに祖父と眺めるのが好きだった。
『なぁ…、要…。この船はいずれお前にやるから。』
祖父がそんな話をするのが嫌だと感じた。
僕が船を受け取る時は祖父がこの世に居ないという意味を子供ながらに理解が出来る。
『要らない…。』
拗ねて、そう答えた。
『いつか…、必要になるさ。』
釣り糸を垂れた祖父が静かに笑った。
確かに必要になった。
チーズの焼けた良い香りが漂う。
「要さんっ!見て見てっ!綺麗に焼けたの。」
はしゃぎながらグラタンの大きなお皿をハコがゆっくりと運んで来る。
「ハコっ!?」
僕はグラタンよりもハコの姿に驚く。
ワンピースを脱ぎ下着だけの姿になった妻…。
「なんつー格好を…。」
「だって…、要さんがちゃんと言ってくれれば水着を持って来たのに…。」
ハコが笑いながら口を尖らせる。