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不器用な夫
第21章 会話
「日焼けしちゃうかな?」
「日焼け止めなら荷物の中にあるよ。」
テーブルにグラタンを置いたハコがクーラーボックスの上にあるボストンバッグの中身を確認する。
一応、タオルや着替えだけは持って来た。
「あった…。」
日焼け止めのローションのビンを握り、当たり前のようにハコが僕の膝に座る。
ハコが腕や足に日焼け止めを塗り、僕はそんなハコに朝食を食べさせる。
「国松家のシェフもお料理が美味しいっ!」
「普通のシェフだよ…、ただオールマイティーなシェフだけどね。」
「オールマイティー?」
変わり者のシェフだと聞いた。
料理学校を出てから何の料理をするかを決められずに世界中のホテルやレストランで働いては辞めるを10年以上も繰り返したシェフ。
中国では特一級の点心師の資格を取得し、中東では宮廷料理人まで務めた経歴の持ち主。
僕が生まれる前、父と母が旅行したイタリアのレストランでそのシェフと出会った。
お嬢様な母。
イタリアの一流レストランだというのに
「よくある平凡な味…。」
と挨拶に来たシェフに言い切った。
その1年後、シェフの方から国松家にやって来た。
「平凡じゃなくなるまで雇って欲しい。」
そしてシェフは母の気まぐれな食事を作るようになったと東から聞いた。
母が寿司と言えば寿司を握り、ピザと言えばピザを焼くシェフだが母には
「やっぱり平凡な味の人なのよ。」
で終わらされる。
そんな話をすればサンドイッチを齧りながらハコがケタケタと笑ってくれる。
僕は少しのサラダを食べて自分用のコーヒーを飲む。
「要さんももう少しは食べなきゃ。」
ハコがスプーンで掬ったグラタンを僕の口元に運んで来る。