この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
不器用な夫
第22章 時間
ゆっくりとハコが息を吸う。
「うちのホテルで見ちゃったの…、お義父様が…、ある人とキスをしてる姿を…。」
ハコが切羽詰まった声を出した。
そりゃそうだと納得する。
茅野家のホテルで父は愛人と過ごす。
そうする事でフェロモンを放ち疼く身体を治めてから母のところに帰って来る。
それを同じホテルに住んでたハコが見てしまった。
まだ幼いハコには信じられない出来事だったのだろうと思うと
「ごめん…。」
と父に代わってハコに謝罪する。
ハコはゆっくりと首を横に振る。
「ううん…、その後、ハコを避けるようになったお義父様の方がハコにはとても悲しかったの。」
ハコに愛人との情事を見られて恥じた父はハコとの食事を止めた。
また独りぼっちにされたハコが取った行動は…。
「お義父様の部屋に押し掛けちゃった。」
らしい…。
父もさすがに驚いた。
それでもハコは父に詰め寄った。
何故、ハコと食事をしてくれないのかと…。
ハコの天然に狼狽える父の姿を想像する。
笑いたくても笑えない。
男との浮気を中学生の少女に見られた挙げ句に何故逃げると脅された父…。
「その時にお義父様が話してくれました。」
ハコが懐かしそうに話す。
『どうしようもないほどに妻を愛してる。妻だけを…、なのに私の身体は妻に反応してくれない。私は妻だけの愛する男で居たいだけなんだ。』
年甲斐もなく母を愛する父の心が母に欲情する。
その欲情でフェロモンが暴走するたびにホテルで男に抱かれて欲情を押さえ込む。
悪循環を繰り返してると父は哀しい顔で笑ったとハコが言う。
「でもね、ハコはお義母様が羨ましかった。そこまでお義父様に愛されてるお義母様が羨ましくて仕方がなかったの。」
独りぼっちだったハコには父と母の関係が哀しいものでなく幸せな夫婦に見えたらしい。