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不器用な夫
第1章 初夜
「茅野君…。」
ニコニコとしたまま、まだ僕を真っ直ぐに見る少女に出席を取るように声を掛ける。
「はい。」
彼女は僕の取る出席に慣れたように答える。
真っ白な夏物のセーラー服。
見覚えのある学章が胸に付いてる。
「君…、それでいいの?」
もう1度、ため息を吐きながら彼女に確認する。
そりゃそうさ。
彼女はまだ16歳になったばかりの少女だ。
しかも…。
僕が務める学校の生徒である。
僕は彼女の担任であり、古典の授業を受け持つ立場の教師である。
国松 要(かなめ)…。
28歳にして未だ彼女無し、独身という地味な男。
その男のところへ、いきなり嫁げと言われた未来ある16歳の少女に、やはり抵抗を感じる。
茅野 葉子(ようこ)…。
確か、クラスメイトは彼女をハコと呼ぶ。
「先生で良かったです。全く知らない人だとハコはドキドキしちゃいます。」
ニコニコと笑顔のままの彼女がそう答える。
本当にそれでいいのか!?
彼女を問い詰めたいが、その気持ちも半分諦めた気持ちになる。
何故なら彼女は天然だ。
いや、うちの学校の大半の子がそうだ。
お嬢様の為のお嬢様専門学校とまで呼ばれる高校である以上、ほとんどの子が世間とは感覚が完全にズレてるとしか思えない。
例えば、昼休み…。
一応は学校食堂という名の普通じゃない高級レストランが存在する。
わざわざ学校側が一流シェフを雇い、日替わりランチだというのに有り得ない高級食材がふんだんに使用されたランチを世間からズレたお嬢様な学生達は平気な顔をしてそれを食す。
そのような高級レストランが既に存在するにも関わらず、更にズレた天然の茅野は学校の中庭に自宅で雇ってる茅野専用のシェフを呼びつけてランチコースを作らせた挙げ句に食した経歴の持ち主だ。