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不器用な夫
第23章 教師
僕の態度に慣れたように果歩が僕の手を握り部屋の中へと誘う。
「それでも…、来てくれたわ。」
部屋に入るなり果歩が僕に痩せた身体を擦り寄せて寂しく呟いた。
「何があったんだ?」
僕の質問に答えず、果歩は気丈にも笑顔を作る。
「コーヒーを入れるわね。」
短い廊下を抜ければ、ちょっとしたキッチンとリビングが目に入る。
8人掛けの白いL型ソファー。
小さなガラステーブルに小さなテレビ。
その向こう側に扉があり、開いたままの扉からベッドが見える。
どうやら、この寝室から玄関に向かって果歩は飛び出して来たらしい。
1LDKの高級マンションで一人暮らしをする少女。
寂しさと悔しさで泣いてたのか?
今はご機嫌で僕のコーヒーを用意する果歩を見る。
僕の視線に気付いた果歩が寂しく笑う。
やってる事は愛人の真似事。
しかし果歩の心からは、そんな素振りを感じない。
「どうぞ…。」
ガラステーブルにコーヒーを置きソファーに座る果歩と少し距離を置いて座る。
「あれが緒方の?」
僕が確認をすると果歩が美しい顔を歪める。
「ええ、母の兄です。お金の亡者で常に利益しか考えない下衆な男。あんな男の事を先生が気にする事なんかありません。」
「しかし…。」
「国松からの答えは恋愛は自由…、私は先生に愛さればそれで満足です。」
果歩が美しい笑顔を僕の為に作る。
その笑顔が消える言葉を僕は吐く。
「僕が果歩を愛する事はない。」
果歩の顔が凍りつく。
「それでも…、先生は来てくれたわ。」
泣きそうな顔で果歩が同じ言葉を呟く。
「一体、何があったんだ?」
明らかに果歩がおかしいとしか感じない。