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不器用な夫
第23章 教師



「そう…、僕は妻しか愛してない。そんな男に何度イカされても虚しいだけだろ?」


優等生の果歩だから僕の言葉を理解して頷く。


「いつか…、君にも君だけを愛し、君の全てを受け入れてくれる人が現れる。それまでは辛いだろうが頑張りなさい。」


いつか僕が言われた言葉を果歩に伝えてやる。


「そんな人が…、現れるかしら?」

「三浦君なら大丈夫だよ。それまでは国松として僕が助けてやる。君は僕の学生だ。大学を出たら三浦も緒方も捨てて自由に生きなさい。」

「その力を身につけるわ。」


そう言った果歩の顔に迷いがなくなった。


「ごめんなさい…、先生。もう帰って…、愛する奥様がきっと心配をして待ってるわよ。」


屈託のない笑顔を果歩が僕に向ける。

しっかり者で意思の強い果歩なら、もう大丈夫だと思い果歩の部屋を出た。

完全に夜だ。

時計は22時を知らせる。

まずいよなぁ…。

帰れば角が生えたハコが待ってると想像する。

タクシーを捕まえて自分の家に帰る。

玄関を開ければ僕を出迎えたのは妻でなく執事の公平の方だ。


「ハコは?」


僕の質問に公平が肩を竦める。


「とっくにお休みに…。」


寝室の方を見る。

寝ててくれて良かったと思う気持ちは嘘じゃない。

果歩を感じさせた手であっさりとハコを抱けるほど器用な男じゃない。


「軽い食事の用意をしてくれるか?」

「御意…。」


台所に消える公平を眺めながら風呂に向かい自分の汚れを洗い流す。

浮気のつもりはない。

果歩とは2度とない関係だ。

墓まで持って逝く秘密がまた増えたとため息が出る。

秘密とは…。

1つ減れば1つ増える。

これって僕が不器用だからか?

自分自身にゾッとした。


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