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不器用な夫
第23章 教師
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「おはようございます…、直ぐにコーヒーの用意をしますから…。」
僕の手を振り払いハコがベッドから滑り降りる。
「ハコ…。」
僕の声が届かない。
無理にハコを引き止める事もまだ出来ない。
明日から夏休みになってしまう。
ハコも大事だが、僕は教師としての務めを今日1日でやってしまわなければならない。
今日だけの事だからと自分に言い聞かせる。
朝食のコーヒーの時にそれをハコに言い聞かせる。
「今日は学校が終わったら真っ直ぐに国松の家に行きなさい。」
僕の言葉にハコが驚愕の顔をする。
「か…なめさんは?」
「僕は仕事がある。公平も僕に付き添う事になるからハコは国松の家に行くんだ。」
「……。」
唇を噛み締めたハコが小さく頷いた。
国松の嫁だから…。
夫に逆らう事は許されない事を少女が理解して涙を堪えてる。
「なるべく、早く帰る。」
そう言ったところでハコの耳には聞こえてない。
父が母に対して、そんな態度を繰り返すのが嫌いだったくせに僕は同じ事をハコにする。
無言のままハコと家を出た。
マンションの前でいつもなら白鳥に向かって駆け出すハコが立ち止まる。
「早く帰って来て…。」
そう呟いてハコが僕の手を握る。
「必ずハコのところにだけ帰るから…。」
ハコの小さな手を強く握り返す。
僕を見ずにハコが白鳥が待つ車に向かって歩き出せば僕と繋がる手がゆっくりと離れ指先から遠のいた。
「公平…。」
「坊っちゃまなら大丈夫です。」
「そうだな。」
僕は笑う。
今日は終業式だけで終わる。
そこから僕は戦う事になる。
その不安を公平が消してくれる。
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