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不器用な夫
第24章 融資
手持ちのカードは全て見せるな。
父から学んだ唯一の経済学。
不器用な僕にはそんな器用な事は出来ないと思い学者の道を諦めて教師になる事を選んだ。
今は父の言葉を守り、ゆっくりと出されたコーヒーを啜り果歩の叔父を焦らす。
インスタントコーヒー独特のざらつきを舌に感じる。
舐められたものだ。
そんな事を考える。
「どうされますか?国松先生…。」
ニヤリと嫌な笑いを浮かべる果歩の叔父を今すぐにでも殴り飛ばしたい気分になるが、不器用で運動音痴な僕にそんな荒事は向いてない。
「100億…。」
小さくそう呟いた。
叔父の目が確認するように細くなる。
「は?」
「ひとまずは100億…、後は状況に応じて考えたい。」
僕の言葉に今度は叔父の目が大きくなる。
器用な人だなとくだらない感心をする。
「100億…、ですか?」
改めて確認を受ける。
「それじゃ少ないかな?あくまでも僕が持てる個人資産の一部だし…。」
まだ出そうと思えば出せると相手を釣る。
今の緒方なら100億でも飛びつく金額と踏んでいる。
三浦に受けた被害はおよそ300億とは聞いてる。
この金額で不服ならば、もう少し釣り上げる用意は出来ている。
「いえ、企業でなく個人資産の運営としては充分な額だと思います。」
叔父が目を光らせる。
掛かったと感じる僕はほくそ笑む。
背筋がゾクゾクとした。
相手が自分の手中に堕ちる感覚を快感にも感じる。
全身からジワジワとフェロモンが滲み漏れる。
「早速、お手続きを…。」
浮かれてソファーから立ち上がろうとする叔父に手をかざし制する。