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不器用な夫
第26章 迷子
「国松か?」
そう声を掛けられてアタフタとしてしまう。
声の主は男…。
低く、よく通る声…。
ハコに見とれて、じわじわとフェロモンを出す今の僕には近付けたくない人物だと条件反射を感じる声の主に向かって振り返る。
質の良い着物を着た体格の良い男。
沈む夕陽を受けて朱に染まる厳つい顔が穏やかな笑顔で僕を見る。
「曽我君…。」
何年ぶりだ?
僕と同じ事を考える彼も懐かしそうに目を細める。
「要さん?」
ハコが僕の浴衣の袖を握って来る。
「前に話したろ?僕の親友…、曽我君。」
つまり彼が東京に在住するイかせ屋だとハコに説明をしてやる。
「はじめまして…。」
ちょこんとハコが曽我に頭を下げる。
「彼女が?」
清太郎さんから状況を聞いてる曽我が確認をする。
「そう…、僕の妻、次の国松の母だ。」
僕の言葉に曽我が目を丸くする。
こういう子供っぽい表情をするのは変わらないのだと思う。
「そうか…、国松って本当に結婚したんだな。」
「おかしいか?」
「俺ら男子高だったし、結婚とか全然イメージ出来なかったからなぁ。」
「曽我君には親衛隊が居たよ。」
「古い話だ。」
厳つい顔をくしゃくしゃにして笑うところは昔と全く変わってない。
「可愛い奥方様だな。」
「まあね…。」
改めて言われると恥ずかしい。
妻は女子高生…。
普通でも可愛らしいとしか言いようがない。
曽我も僕もそういう年齢になったのだと感じる。
「時間があるなら夕食でもどうだ?」
曽我を屋形船の方に誘ってみた。
「今日は親父の仕事の手伝いで来たんだ。それに人を待たせてるから…。」
曽我が親指で軽く指した先には白い浴衣を着た女性が立っている。
父親の手伝い…。
この川沿いに並ぶ500以上の屋台は全て曽我家からの手配だと意味する。