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不器用な夫
第26章 迷子



「はじめ…、まして…。」


ハコが小さな声で呟く。

ハコだって茅野家の令嬢である以上はそれなりにプライドがある。


「国松も変わったわね。」


絵里美が吐き捨てるように言う。


「絵里美、口が過ぎるよ。」


僕は絵里美を窘める。


「何が?」

「ゲストなら、ホストの事をあれこれと口にしないのが礼儀だろ?嫌なら帰ればいい。」


それはゲスト側の自由だ。


「まあ、それはいいわ。今日は要に会いに来た訳じゃないし。」


絵里美の態度に苛つく。

こんな女性じゃなかった。

それだけが気になる。


「それよりも要、どういうつもり?」


絵里美が僕に噛み付いて来る。


「何の事だよ?」

「あんた、教師としての常識も失ったの?」

「どういう意味だ?」

「教え子に手を出すとか…、見損なったわ。」

「絵里美には関係ないだろ?大きなお世話だ。」


ただでさえ年齢に敏感になるハコの前で余計な事を言うとしか感じない。


「そうね…、私には関係ないわね。」


唇を噛む絵里美の苛立ちを感じる。

一体、なんなんだ?

僕だけに状況が見えずに空気がピリピリとする。

やっと父と母を乗せた屋形船が桟橋にやって来る。

屋形船の船室は2つ。

1つは食事をする部屋…。

窓は枠が外されてて花火を見ながら食事が出来る。

もう1つは天井が硝子になっているから花火を全体的に眺める事が出来る部屋…。

ひとまずは今夜、国松が招待したゲストとと共に食事をする流れになっている。

父が招待したのは父の教授仲間である北村教授とその奥様。

教授の奥様には母がよく芝居などに誘って貰ってるという間柄だからと父が招待をしたゲスト。


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