この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
不器用な夫
第27章 家出
前回と違い今日は車ごと藤原家に招き入れられる。
顔色の悪いハコを車から降ろす。
「ハコ?大丈夫か?」
ハコは無理に笑ってくれる。
「うん、ハコなら平気…。」
嘘だと感じる。
公平がハコが頑張る子だと言ってた意味が痛いほどにわかる。
国松の妻になるだけでも16歳の少女には大変な気遣いをして来たはずだ。
五代や清宮からの争奪戦に振り回された挙げ句に最古の藤原家に流れ着いた少女は精神的にもボロボロだと誰が見ても明らかだ。
そのハコの頭にキスをして僕はハコを庭の方へと連れて行く。
「要さん?」
礼儀から外れる行動をする僕をハコが心配する。
「大丈夫…、きっと清太郎さんはこっちに居る。」
広く、よく手入れされた日本庭園をハコと散歩するように歩く。
「綺麗なお庭、日本って本当に綺麗だよね。」
庭を見て心が落ち着いて来たハコが穏やかに笑ってくれる。
これが藤原家の力だと感心する。
招かれた人の心を穏やかにするもてなし。
その庭を抜けた先にある屋敷の縁側で優雅にお茶を飲む着物を着た男性が見えて来る。
ハコが立ち竦む。
「あの人が清太郎さん、藤原家の当主だ。」
ハコに説明しながら清太郎さんを見る。
僕とハコに対して春のような暖かい陽射しを感じさせる笑顔を向けてる。
僕はハコの肩を抱いて、ゆっくりと清太郎さんの前まで歩いて行く。
僕とハコを待っていたようにエプロン姿の女性が縁側にお茶を二つとお茶菓子を置いてくれる。
あの頃と何も変わってない藤原家を懐かしく思う。
清太郎さんすら変わってない。
柔らかな綺麗な顔立ちのままだ。
清太郎さんって童顔なんだと笑いたくなる気持ちが込み上げる。