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不器用な夫
第27章 家出
どうすればハコに幸せなだけの人生を与える事が出来るのか?
それを改めて考える夏休みなのだと思った。
日が暮れる前にハコを連れて藤原家を出た。
清太郎さんが待つ料亭に向かう。
一限では入れないと一目でわかる料亭…。
それでも藤原家のもてなしを感じさせる一流の場でハコは臆する事なく堂々と振る舞う。
茅野家の令嬢は伊達じゃない。
普段は天然で何をやらかすかとハラハラさせるハコが落ち着いた藤色のタイトなワンピースを着て、控えめなメイクを施し、真っ直ぐと前を向き歩く姿に惚れ惚れとする。
「さすが…、藤原家…。」
ハコが小さく呟く。
料亭としての質の良さは日本トップクラスだとグルメでなくとも感じる。
門から店の入り口までの通路は打ち水で涼を、その脇を流れる小川は静を強調させ、夏の夜の幻想を燈籠の灯りが彩りを描く。
まさに芸術だとも言える料亭の入り口に立たされる僕だけが緊張する。
「ハコは随分と慣れてるよね。」
安物のハンバーガーショップでもそうだった。
頼りない僕よりもハコの方が堂々としてて純粋に食事を楽しんでる気がする。
「ママから教わったから…、いくら立派なお店でもお客様を威圧するお店は3流だって…。お客様が普通に楽しめる場を提供出来てこそのサービス業なんだから、お客様の時は堂々としてて良いんだよって教わったわ。」
世界トップクラスのホテル事業を展開する茅野家らしい教育に感心した。
「こちらに…。」
僕が国松だと名乗るだけで着物姿の女将が僕とハコを店の奥へと案内する。
廊下を抜けた先に庭を跨ぐ渡り廊下があり、その先には燈籠でライトアップされた日本庭園を眺めて食事が出来る広めの個室がある。