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不器用な夫
第29章 生活



その全てを僕は受け止める。

その上で僕は自分の意思を貫く。


「お怒りはご最もだと存じ上げております。」


僕はもう一度だけ兄に頭を下げる。


「なら、妹とは離婚を?」


それを言われても仕方がない。

我儘だとわかってるくせに僕は自分の意思を貫く。


「ハコとは離婚するつもりはありません。」


兄が僕の言葉を鼻で笑う。


「では君はどうやってハコを守る気だ?拗れに拗れた状況で妹が普通に学校に通えるとでも?君は教師だと聞いた。教師なら妹がこの先にどんな扱いを受けるかくらいわかる話だろ?」


わかり切った事を言われるのは耳が痛いなと思う。

ゆっくりと頭を上げて兄を見る。


「充分に理解はしています。」

「ならば…。」

「理解をした上で僕はハコとは離婚をしないと言ってます。」

「お坊っちゃまの我儘だな。」


呆れた声がする。

そう僕はお坊っちゃまだ。

不器用で執事任せの頼りない男。

持ってるのは国松というプライドだけ…。

ただ全身がゾワゾワとする。

本能が僕とハコを守ろうと僕の体内で蠢いてる。


「要君…!」


清太郎さんがいち早く僕の変化に反応する。

もう止められない自分を解放して僕はハコの兄と対峙する。


「貴方が言う通り僕はお坊っちゃまだ。それも飛び切りの我儘なお坊っちゃまですよ。なんせ、あの悪名高い国松ですからね。」


居直る僕を兄が笑う。


「その国松は妹を守れなかった。」

「それは違う。守れなかったのは僕だけで国松が守れなかった訳じゃない。その理由は僕がまだ国松のお坊っちゃまで当主ではないからだ。」


じわじわと体内からフェロモンが排出される。

これは僕を守る為の自己防衛本能だ。

ハコを守る為に僕は僕を守ろうとしてる。


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