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不器用な夫
第29章 生活
ハコが公平と浮気したらどうしよう?
僕みたいな頼りない男よりも公平の方がいいとハコが判断したら僕は生きていけないな。
くだらない夢を見ながら僕はのたうち回る。
フェロモンが治まった僕が国松専用の部屋を出れたのは3日目の事だった。
「匂うよ…。」
清太郎さんが苦笑いをして僕を見る。
「お風呂をお借りします。」
膨れっ面で僕は藤原家の風呂に入り、清太郎さんが作ってくれる食事を食べる事になる。
「気分はどうだい?」
僕を心配する清太郎さんがずっと僕に寄り添う。
気分なら最悪だ。
自分の半身を失ったような感覚がする。
だから何度も自分に言い聞かせる。
僕はハコを失った訳じゃない。
と…。
「帰ります…。」
清太郎さんにこれ以上の迷惑を掛けても仕方がない。
「昌を迎えに寄越そうか?」
「結構です。」
これからの僕は1人でも生きられる男にならなければ意味がない。
藤原家を出てタクシーに乗る。
新幹線のチケットを買うのにも一苦労だと思う。
京都からは東京までの飛行機が無い事すら初めて知った。
東京駅から再びタクシーで自分のマンションに帰る事にする。
今は母や父の小言を聞く気分じゃない。
公平が居ないマンション。
ハコが居ない僕の部屋…。
静か過ぎて胸が痛くなる。
「ハコ…。」
馬鹿みたいに泣いていた。
28にもなった男が女々しく1人で泣き続ける。
泣き疲れては眠り、目が覚めれば1人で泣く。
自分が決めた事だとわかっててもハコが恋しいと思うだけで涙が出る。
泣いては寝て、起きては泣く。
少しづつ涙が収まり、僕は生活というものと戦いを始める。