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不器用な夫
第29章 生活



近所のスーパーで買い物をする。

狐うどんを作れる男になる為に…。


「うどんって何分湯掻くんだ?」


何もわからない僕は茹でうどんを更に茹でる。

揚が乗ってれば狐うどんだろ?

適当に買って来た揚を乗せてうどんを食う。


「不味っ!」


ベチャベチャに伸びたうどんに味のない汁と揚は食べれたものじゃないと知る。

ハコと公平が居ない今の僕に出来るうどんはこの程度だと自覚して笑う。

翌日は学校に行く。

夏休み中の学校は静かだ。

保健室に顔を出す。


「あら?1人で来たの?」


保健医の新巻先生の言葉が痛い。


「1人です。しばらく、僕は1人なんです。」


僕の言葉を察した新巻先生が僕の為にコーヒーを入れてくれる。


「国松先生は1人じゃないわ。」


新巻先生の慰めにまたしても涙が出た。

そんな自分が嫌いじゃない。

未熟だった自分を涙と共に洗い流す。

落ち着いたら教室に行きハコの机に座る。

ハコはアメリカで高校に入学し直す事になる。

僕から学んだ事を君は覚えててくれるかい?

ハコの代わりにハコの机を撫でてみる。

君は優秀な学生だった。

僕しか見ない僕だけの学生だった。

必ずハコは帰って来る。

その自信だけを取り戻す。


「帰ります…。」


僕を心配して教室まで様子を見に来た新巻先生にそう言うと新巻先生が笑顔になる。


「気を付けて帰るのよ。」


学生に言う様な口調で僕を新巻先生が送り出す。

そうやってハコの居ない夏休みを僕は過ごす。

週末は実家に帰る。

父は何も言わないが母が僕を汚いものを見るように見ては叱る。


「その無精髭…、国松の殿方だというのにだらしがないわ。早急に公平さんの代わりを東に探させるべきかしら…?」


伸び切った僕の髭を汚いと何度も母が繰り返す。


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