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不器用な夫
第29章 生活
「髭は学校が始まる前には剃りますから…。」
ハコが傍に居ない僕は再び僕に過保護な母から逃げ回る生活に戻っていく。
洗濯やら掃除やら買い物やら…。
今は自分の生活をするだけで精一杯だ。
朝起きてコーヒーを入れる。
「げっ!?またスーパーに行くのかよ。」
切れたコーヒー豆のメーカーを確認して、ため息を吐く事になる。
馬鹿な僕は何かが切れるたびにスーパーやコンビニを駆けずり回る。
トイレットペーパーにシャンプー…。
その時の僕には、まとめ買いや予備を買い置きするという知識がなかった。
何度も何度もスーパーに走る為に1日の時間が足りなくなる。
食事はひたすら狐うどん…。
不器用な僕はまだまともなうどんが作れない。
インターネットでうどんの作り方を調べたが、大量に現れる情報に混乱する。
「手打ちうどん?うどんの麺から作るとか無理に決まってるだろ!」
ネットにまで八つ当たりをしながら、懲りずにうどんを作り続ける。
夏休みの終わりが近付く頃に亜由美がうちに来た。
「大変なら、私が要さんの身の回りのお世話をさせて頂きますから。」
亜由美はここぞとばかりに自分の出番だと僕に対する笑みを絶やさない。
姉の絵里美とは違い、名家の令嬢として短大を出てからは良妻賢母を目指し家事手伝いの立場で五代の家に居続けた亜由美。
大人しく慎ましい亜由美だが、その反面はつまらない女だとしか感じない。
「お言葉だけ有り難く頂くよ。」
僕は亜由美を突き放す。
「遠慮は…。」
「遠慮はしてない。僕は自分の事が出来る。君も自分の事が出来る人間になるべきだ。」
「私は…。」
「自分の力で生きてない君の世話になるほど僕はまだ堕ちてないよ。」
蔑みや憐れみは必要ない。
僕は僕が生きる為の力が欲しいだけだ。