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不器用な夫
第7章 紳士



ハコには自力で参考書の問題を解かせて僕は静かな午後を過ごそうとコーヒーを飲みながら読みかけの本を開く。

いつもの僕なら休日の午後は本を読んだりして静かに過ごす。

ハコが大人しく勉強をしてくれるのなら僕の静かな午後が保たれる。

…と思うのは僕の独り善がりな間違いだった。

5分もせず、沈黙は破られる。


「もーっ!何、これ!?意味わかんないし。」


ハコが参考書に文句を言う。


「馬鹿じゃない?なんで『おかし』が美しいになんの?おかしいなら変って事でいいじゃない。」


よほどハコは古典が嫌いらしいとだけは理解をする。


「髪を梳かすのを嫌がってんだから変な髪でいいじゃん。髪を梳かしてないのに美しい髪ですねとかになるのが意味わかんない!おかしな髪はおかしな髪ってはっきり言ってやればいいのよ。」


たかが古文に出る例文1つによくこれだけの文句が言えるものだと呆れて来る。


「あれこれと難しく考えずに英語と同じだと思えば大した事ないよ。」


古典を教える事は出来ないが助言くらいはしてやろうと思う。


「英語と同じ?英語は気付けば使えるようになってたもん。古典は無理…。」


帰国子女ならではの発言。


「英語を日本語に訳す感覚と同じと思えば…。」

「英語は世界の公用語!古典は誰も使ってない滅んだ言葉!インカやマヤと同じ!こんな言葉を未だに使う一族って京都の藤原家くらいです。」


ふんっとハコが鼻を鳴らす。

ドヤ顔をするハコに驚きが隠せない。


「京都の…、藤原家って…?」


僕の問にハコがしまったとばかりに口元を小さな手で押さえる。


「ハコは藤原家も知ってるんだ…。」


含みある言葉をハコに投げかける。


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