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不器用な夫
第7章 紳士



「それに…?」


言葉を続けない僕をハコが促す。


「それに、藤原家の次期当主は僕の高校の同級生だったってだけだよ。」


ハコに話すべき話を濁し、曖昧にだけ答える。


「次期当主が?でも藤原家の現当主は…。」


不思議そうな表情をハコが浮かべる。

そう…、藤原家現当主は未だに独身だ。

国松家同様に藤原家も嫡子問題を抱える一族で有名な一族である。


「現当主の姉の子、つまり甥が次期藤原家の当主となるんだ。」

「知らなかった。」

「そうだね…、彼はまだ曽我の性を名乗ってるはずだから…。」

「曽我家?聞いた事ありません。」


そりゃそうだろう。

曽我家は名家のレベルでも低い方だと思う。

その歴史はせいぜい150年ほど…。

しかも一本どっこいという立場を貫き、他の名家との繋がりを持たずに来た一族。

そんな曽我家の存在を知る人などほとんどいないと思われる。

強面で厳つい顔の男…。

曽我 昌(あきら)…。

そんな彼が少年らしく屈託の無い顔で豪快に笑う姿を今でも僕は思い出す。

僕が行った学校は中高一貫の男子校だった。

その学校で出来るだけ目立つ事なく、寧ろ地味な存在になるようにと務める毎日だった。

中学生はともかく、高校生ともなれば性に目覚める男の群と化す。

そこで僕が迂闊にフェロモンを放てば僕の学校生活は毎日がレイプという悲惨なものになりかねない。

国松家の歴代当主が地味に生きて来た理由を理解した僕は僕とは正反対にやたらと目立つ生き方をする曽我の存在を遠くから眺めるだけの学生だった。

彼は常に堂々とした男らしい男だ。

生徒会長を務め、先生の信頼も厚く、様々な学生に取り囲まれた生活を送る彼から一番遠い存在になる事で僕は自分の存在を消す事が出来る。


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