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不器用な夫
第7章 紳士
「ここに…。」
そう言って、ゆらりと曽我が立ち上がるだけで食堂中の学生の視線が彼に集中する。
「昼休みに、すまないが正門前の他校生をどうにかしてくれないか?」
先生ですら彼を頼る発言をする。
「他校生ですか?」
「お前、目当てに集まった女子だ。」
先生が苦笑いをする。
「ああ…、なら俺はもう帰ったとでも言って下さいよ。」
曽我も苦笑いをする。
彼目当てで連日のように学校前には女子高生達が集まるという事態に学校側も対応に困ってる。
駅を挟んだ向こう側にはうちの学校の正門に群がる女子高生達が通う学校がある。
電車通学の曽我がそこの学生を何かと助けてるという偉業が噂にはなってる。
ある日の話では遅刻気味なのに電車に乗り遅れまいと駅のホームを必死に走る女の子達の為だけに曽我はドアが閉まらないようにして電車を停めたとか…。
その曽我が乗る車両には何故か絶対に女子高生目当ての痴漢が現れないとか…。
とにかくやたらと紳士な高校生が居ると学校界隈ではかなりの噂になっていた。
そして学校前にはその紳士を一目見ようとファンクラブ的な女子高生が集まる。
見知らぬ他人の為に何かと動き回る曽我という男に憧れと嫌悪を抱いたあの頃を僕は笑いたくなる。
今も…。
お前は変わってないのだろうか?
僕はやはりお前を頼る事になるのだろうか?
あの頃の僕は食堂から出て行く彼の大きな背中を眺めるだけの地味な存在だったはずなのに…。
彼は自分から僕の世界に踏み込んで来た唯一の男で僕の親友だとまで言った男だ。
参考書を睨むハコを見ながら考える。
曽我に…。
いや、厳密には藤原家に僕の妻としてハコを連れて行くべきだろうか?
あの頃の僕のように藤原家から国松家の婚姻の意味をハコが知る必要があるかもしれない。