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不器用な夫
第7章 紳士
あの頃…。
あの日…。
あの時…。
はぁはぁと息を上がらせる。
全身が熱くて喉が渇く。
顔の横を流れ落ちる一筋の汗を自分の手の甲で拭いバクバクと鼓動する心臓を押さえ込むようにシャツの胸元を握りしめる。
興奮に似たトランス状態…。
早く収めなければと気持ちだけが焦る。
人から離れるようにグランドの隅の日の当たらない場所へと逃げ込む。
直に高校2年が終わる。
既に3年だった公平は卒業した。
残りの1年は公平に頼らずに自分でなんとかしなければと焦る日々。
学年末試験も終わり、消化授業が後2日ほどという終業式前の最後の体育の後だった。
やる事がないからと課せられた持久走。
運動神経が悪く体力のない僕はボロボロになって完走だけはした。
だが無事に完走したからといって僕は油断出来ない状況に追い込まれる。
誰もが
「だりぃー!」
と叫びながらグランドの真ん中に倒れ込み大の字になる持久走後で僕だけが気怠い身体を引きずってグランドの隅へと逃げようとする。
今、男を近付ければ僕に身の破滅が起きる。
最近は自分でもフェロモンを吐き出す瞬間をそれなりに理解が出来る。
そんな時は人の居ない場所へと逃げるに限る。
そうやって必死に逃げ出す僕の腕が誰かに掴まれて僕の動きが封じられる。
まずい…。
その事だけで頭が一杯になる。
反射的に自分の口を手で押さえて息をする事すら僕は停止する。
フェロモンの吐き出しを少しでも押さえ付けたいと必死になるが全身の皮膚から吐き出されるものまでは押さえようがない。
僕の腕を掴んだ奴に視線を向ける。
太陽を背にした大きなシルエット。
そして…。
「なぁ、お前…、この甘い匂いってなんなんだ?」
と僕の全身にビンッと響く低い声がした。