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不器用な夫
第8章 当主



「何から話すべきかな…。」


曽我が照れたようにはにかむ笑顔を僕に向ける。

悪戯っ子のような顔。

普段は強面で厳つい彼が少年の顔を見せるとその笑顔に誰もが惹き込まれる。

僕だって例外じゃない。

僕の顔にそっと優しく添えられた彼の手。

大きくて温かく、小さな子供が母親に抱かれるような安心感を与えて来る。


「別に変な意味があった訳じゃないんだ。俺は俺の立場なりにお前が放つその香りに興味があって、その香りの意味を知りたかっただけだった。」


僕が放つフェロモンに曽我は気付いてた。


「初めてそれを嗅いだのは入学して間もない頃だったかな…。確か放課後の図書館だ。」


曽我が懐かしそうに話す。

学校の裏庭にある別館造りの図書館。

僕はその片隅で公平にキスをされる。


「坊っちゃま…。」


僕をその気にさせたい公平は必死だ。

本棚に僕を押し付け僕の胸をまさぐり、首筋に何度もキスを繰り返す。

身体が勝手に反応する。

だけど心は冷めていく。

国松家の男としての生き方を父から聞いたばかりの僕は公平から離れる決意をしたからだ。


「やめろ…、公平…。」

「坊っちゃま…。」

「これ以上はダメなんだ。僕の言葉が聞けないなら公平を国松の家から追い出す事になる。」

「自分は坊っちゃまのお側に…。」

「なら…、理解しろ。」

「御意…。」


臣下の礼を公平が初めて僕に尽くした日。

公平に抱かれたがり熱を帯びて疼く身体を翻し図書館を後にした。

後に残るのは僕の残り香を抱いた公平だけ…。


「始めは東先輩の香りだと勘違いしてた。」


曽我がポリポリと自分の頭を指先で掻く。


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