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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業
「らっしゃいませー!何名様すかー?」
賑やかな音のする自動ドアを入ったら、店員さんが迎えてくれた。
「予約で、待ち合わせです」
「お名前は?」
「あ!チカちゃーん!」
「久しぶりー!」
幹事の子の名前を言おうとしたら、奥の座敷から声が掛かった。
「あちらすね、どうぞ!」
「ありがとう」
開いてる戸から中を覗くと、懐かしい顔が並んでる。
私が初めて三年生を持った時の子たちだ。
「わー、チカちゃんだ!」
「本物のチカせんせー!」
「先生は止めて?生徒と居酒屋なんて、気が引けちゃう」
「生徒つっても、もうみんなとっくにハタチ越えましたよー?」
「チカちゃんの中では、俺らはいつまでも可愛い生徒なんだよ!なー先生?……あ、先生って言っちゃった、ごめん!」
「みんな、大人になったねー……」
当たり前だけど、もう制服じゃないし、お化粧も上手くなってるし、お酒飲んでるし。ただ飲んでるだけじゃなく、飲み会に慣れてる雰囲気もある。
「大人って!何年経ったと思ってんの?」
「チカちゃんは、変わんないね!」
「……それ、成長してないって事?」
「今も若くて可愛いって事ー!!」
「きゃ?!」
冗談混じりで軽く拗ねたら、入って来た誰かに羽交い締めみたいに抱き付かれた。
「っ……?!」
「ひっさしぶりー、チカちゃーん!」
「ちょっと野際!セクハラー!」
抱きついて来たのは、野際くんだった。
「えー!これ、セクハラ?」
お酒と、男の人の匂い。もう生徒だった野際くんじゃないんだなー。
「野際くん、来年卒業だよね?就職するんでしょ?社会人になるんだから、けじめはちゃんと付けないと」
「チカちゃん、惜しい!」
「え?」
「せんせー……俺、来年卒業出来なーい」
「えっ」
「必修落として留年だって」
泣き真似をする野際くんじゃなく、他の子が説明してくれた。
「ええっ?!」
「ごめん。チカちゃんのお陰で、入学出来たのに……」
「野際くん……」
急にしおらしくなった野際くんに、一瞬同情する。
「お願い。可哀相な俺を、体で慰め……痛てっ!」
「何バカな事言ってんだ、お前」
「っ?!」
遅れて来たらしい誰かが、私の背中から野際くんを引き剥がした。
「大丈夫?チカちゃん。」
「あ……」
振り返った目に写ったのは、大人っぽくなった内川くんだった。