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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
「…すべて貴方が仰る通りです」
…もう隠すことを諦め、郁未は静かにお茶を淹れ始めた。
白いボーンチャイナの器の中、馥郁たるダージリンの薫りが広がる。
…梅さんは紅茶の配合も上手だな…。
脈絡のないことを考える。
原嶋にお茶を勧めながら、口を開く。
「…原嶋さんのお調べになった通りです。
清良さんは浅草界隈でスリを繰り返していました。
学歴も資格もない十七歳の少女が一人で生きる為には、仕方のないことです。
…けれど世間のひと…特に上流階級の人間はそう受け取るでしょうか?
恐らくは目に見えない誹謗中傷をたくさん受けるに違いありません。
ですから、私は清良さんの経歴を塗り替えました。
こことは一切の関わりもなかったことにしました。
…それなのに…」
郁未は原嶋を見つめた。
「それなのに、どうして私が清良さんに愛していると言えるでしょうか。
私と清良さんが結ばれたら、いずれ世間には清良さんの過去が明らかになるでしょう。
…それだけは避けなくてはならない。
だから私は、清良さんへの愛を諦めたのです」
原嶋は郁未の話を最後まで一言も口を挟まずに聞いていた。
そうしてカップを手に取ると一口お茶を飲み、感心したように唸った。
「実に美味しいお茶ですね。
味の分からない私ですら分かる繊細で優雅な紅茶だ」
しかし直ぐにカップをソーサーに戻すと、あからさまにぞんざいに言い放った。
「…けれどそれだけだ。
繊細で美しく優雅…。
だけどそこには滾る情熱も、ひとに訴えかける生きた心もない。
…まるで貴方のようだ」
…もう隠すことを諦め、郁未は静かにお茶を淹れ始めた。
白いボーンチャイナの器の中、馥郁たるダージリンの薫りが広がる。
…梅さんは紅茶の配合も上手だな…。
脈絡のないことを考える。
原嶋にお茶を勧めながら、口を開く。
「…原嶋さんのお調べになった通りです。
清良さんは浅草界隈でスリを繰り返していました。
学歴も資格もない十七歳の少女が一人で生きる為には、仕方のないことです。
…けれど世間のひと…特に上流階級の人間はそう受け取るでしょうか?
恐らくは目に見えない誹謗中傷をたくさん受けるに違いありません。
ですから、私は清良さんの経歴を塗り替えました。
こことは一切の関わりもなかったことにしました。
…それなのに…」
郁未は原嶋を見つめた。
「それなのに、どうして私が清良さんに愛していると言えるでしょうか。
私と清良さんが結ばれたら、いずれ世間には清良さんの過去が明らかになるでしょう。
…それだけは避けなくてはならない。
だから私は、清良さんへの愛を諦めたのです」
原嶋は郁未の話を最後まで一言も口を挟まずに聞いていた。
そうしてカップを手に取ると一口お茶を飲み、感心したように唸った。
「実に美味しいお茶ですね。
味の分からない私ですら分かる繊細で優雅な紅茶だ」
しかし直ぐにカップをソーサーに戻すと、あからさまにぞんざいに言い放った。
「…けれどそれだけだ。
繊細で美しく優雅…。
だけどそこには滾る情熱も、ひとに訴えかける生きた心もない。
…まるで貴方のようだ」