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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い

「…私は…」
原嶋がゆっくりと立ち上がる。
「馬場で、貴方と清良さんはキスをされていましたね。
…美しい王子様と美しいお姫様のキス…。
あまりに綺麗すぎて嫉妬するのも忘れてしまいましたよ」
愉快そうに笑う原嶋に、郁未は口を開く。
「…あれは…してはならないことでした。
私は…確かに清良さんを愛しています。
けれどそれを伝えるつもりはありません。
…なぜなら…」
はっと我に帰る。
…本当の理由を言ってはならない。
言えば、原嶋に清良の秘密が明らかになってしまうからだ。
郁未の躊躇に、原嶋は簡単な謎解きをするかのようにさらりと告げる。
「清良さんの過去が知られてしまうからですか?」
ぎょっとしたように郁未は原嶋を見た。
「…清良さんは千葉の豪農のもとでお育ちになった訳ではない。
義彦氏に横恋慕したメイドに盗まれ、そのメイドのもとで育てられた。
…そしてメイドの死後、浅草でスリなどを繰り返して生き延びていた。
その清良さんを引き取り、ここで教育していたのが…他でもない…貴方だ」
「原嶋さん!」
思わず叫んでいた。
「…貴方は…何を根拠に…そんなこと…」
咎められても、原嶋は全く態度を変えなかった。
「全て調査済みですよ。
…清良さんを妻に迎えようと思ってから、あの方のことは何でも知りたかったのです」
さもないように言ってのける原嶋の胸中を、やはり郁未は推し量ることができなかった。
…この男は…このあと、何を言い出すつもりなのか…。
二人の眼差しが交錯する張り詰めた雰囲気の中、遠慮勝ちなノックの音が聞こえた。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
…学院で下働きをしている梅だ。
郁未は戸口まで進み、素早くトレーを受け取った。
「ありがとう、梅さん。あとは僕がやるよ」
梅は深くお辞儀をしつつ、下がっていった。
「…今の方は梅さんですね。
清良さんが小さな頃にお隣に住んでいた方だ。
貴方が清良さんの為に探し当てたと聞きましたが…なるほど、ここで雇って差し上げたのですね。
さすがは、お優しい院長様だ」
まるで占い師のようにぴたりと言い当てた。
身寄りも仕事もなかった梅を雇ったのは清良が学院を去ってからのことだった。
暫しの沈黙ののち、郁未は深く息を吐いた。
「…貴方は…何もかもご存知なのですね…」
原嶋がゆっくりと立ち上がる。
「馬場で、貴方と清良さんはキスをされていましたね。
…美しい王子様と美しいお姫様のキス…。
あまりに綺麗すぎて嫉妬するのも忘れてしまいましたよ」
愉快そうに笑う原嶋に、郁未は口を開く。
「…あれは…してはならないことでした。
私は…確かに清良さんを愛しています。
けれどそれを伝えるつもりはありません。
…なぜなら…」
はっと我に帰る。
…本当の理由を言ってはならない。
言えば、原嶋に清良の秘密が明らかになってしまうからだ。
郁未の躊躇に、原嶋は簡単な謎解きをするかのようにさらりと告げる。
「清良さんの過去が知られてしまうからですか?」
ぎょっとしたように郁未は原嶋を見た。
「…清良さんは千葉の豪農のもとでお育ちになった訳ではない。
義彦氏に横恋慕したメイドに盗まれ、そのメイドのもとで育てられた。
…そしてメイドの死後、浅草でスリなどを繰り返して生き延びていた。
その清良さんを引き取り、ここで教育していたのが…他でもない…貴方だ」
「原嶋さん!」
思わず叫んでいた。
「…貴方は…何を根拠に…そんなこと…」
咎められても、原嶋は全く態度を変えなかった。
「全て調査済みですよ。
…清良さんを妻に迎えようと思ってから、あの方のことは何でも知りたかったのです」
さもないように言ってのける原嶋の胸中を、やはり郁未は推し量ることができなかった。
…この男は…このあと、何を言い出すつもりなのか…。
二人の眼差しが交錯する張り詰めた雰囲気の中、遠慮勝ちなノックの音が聞こえた。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
…学院で下働きをしている梅だ。
郁未は戸口まで進み、素早くトレーを受け取った。
「ありがとう、梅さん。あとは僕がやるよ」
梅は深くお辞儀をしつつ、下がっていった。
「…今の方は梅さんですね。
清良さんが小さな頃にお隣に住んでいた方だ。
貴方が清良さんの為に探し当てたと聞きましたが…なるほど、ここで雇って差し上げたのですね。
さすがは、お優しい院長様だ」
まるで占い師のようにぴたりと言い当てた。
身寄りも仕事もなかった梅を雇ったのは清良が学院を去ってからのことだった。
暫しの沈黙ののち、郁未は深く息を吐いた。
「…貴方は…何もかもご存知なのですね…」

