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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
「…あんた、式はどうしたんだ?」
教会の入り口に中古のオースティンが停まっていた。
運転席から声は掛かった。
…薄茶色のロイド眼鏡、煙草をふかし、どう見ても堅気ではない鋭い雰囲気だが、どこか理知的さを感じさせる人を惹きつける端正な風貌の男だった。
「気が変わった。結婚式はやめだ。
山猿のお転婆娘は好みじゃないんでね」
男が吹き出した。
「賢明な選択だ。
あのじゃじゃ馬は乗りこなすのはめんどくさいぜ。
見た目は大層綺麗な花だが、中身は山猿で野良猫でぎゃんぎゃんうるさい小娘だからな。
…あんたは見る目があるな」
思わず一緒に笑ってしまう。
…少しだけ、寂しい心が温まる。
「あんた、これからどうする?」
「クウェートに行く。これからは石油だ。
アラブのオイルダラーと渡り歩いて、世界に通用する石油会社を作るのが俺の長年の夢なんだ」
「…男のロマンだな。羨ましいよ」
この男とは馬が合いそうだな…と思う。
「…それに、俺はやっぱり港港に女を作る方が性に合っているからな。
外国が向いているんだ」
にやりと笑い、礼拝堂を振り返る。
とうとう手に入れることはできなかった気高く凛々しい白百合のような娘に、心の中で別れを告げる。
「…じゃあな。あんたの親友に伝えてくれ。
あんまり尻に敷かれっぱなしになるなよ…てな」
男は愉快そうに笑い、頷いた。
「あんた、いい人だな。成功を祈るよ」
原嶋は男に軽く手を挙げると、そのまま一度も振り返ることなく、運転手の待つメルセデスへと歩いていった。
教会の入り口に中古のオースティンが停まっていた。
運転席から声は掛かった。
…薄茶色のロイド眼鏡、煙草をふかし、どう見ても堅気ではない鋭い雰囲気だが、どこか理知的さを感じさせる人を惹きつける端正な風貌の男だった。
「気が変わった。結婚式はやめだ。
山猿のお転婆娘は好みじゃないんでね」
男が吹き出した。
「賢明な選択だ。
あのじゃじゃ馬は乗りこなすのはめんどくさいぜ。
見た目は大層綺麗な花だが、中身は山猿で野良猫でぎゃんぎゃんうるさい小娘だからな。
…あんたは見る目があるな」
思わず一緒に笑ってしまう。
…少しだけ、寂しい心が温まる。
「あんた、これからどうする?」
「クウェートに行く。これからは石油だ。
アラブのオイルダラーと渡り歩いて、世界に通用する石油会社を作るのが俺の長年の夢なんだ」
「…男のロマンだな。羨ましいよ」
この男とは馬が合いそうだな…と思う。
「…それに、俺はやっぱり港港に女を作る方が性に合っているからな。
外国が向いているんだ」
にやりと笑い、礼拝堂を振り返る。
とうとう手に入れることはできなかった気高く凛々しい白百合のような娘に、心の中で別れを告げる。
「…じゃあな。あんたの親友に伝えてくれ。
あんまり尻に敷かれっぱなしになるなよ…てな」
男は愉快そうに笑い、頷いた。
「あんた、いい人だな。成功を祈るよ」
原嶋は男に軽く手を挙げると、そのまま一度も振り返ることなく、運転手の待つメルセデスへと歩いていった。