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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
「それは良かった。
男女の営みは神聖な行為だ。
本当に好きなひととでないとしてはいけないよ。
…それから僕のことは嵯峨先生と呼んでくれないか。
生徒たちにはそう呼ばれている。
…さあ、もう遅いから寝みなさい。
細かい説明は明日しよう。
ここの寮母さんには、明日朝ここに来て色々教えてもらえるように伝えておくよ。
では、お寝みなさい。良い夢を」
一気に捲し立てると、部屋の扉を閉めた。


…郁未は、自宅の私室に戻ると一気に疲れが押し寄せた自分を感じた。

…何なんだ、あの少女は…。

郁未はこれまで孤児の少女を数多この学院に引き取ってきた。
けれど、あのように蓮っ葉で明け透けで突拍子のない少女は初めて出会った。

…あの少女を、淑女に育て直すのは至難の技だな…。
今日何回吐いたか分からないため息を、郁未は再び吐いた。

カーテンを閉めようとして、向かいの寄宿舎の窓明りを見つめる。
…清良はまだ就寝していないようだ。

…今日は色々あったから、寝付けないのかも知れないな…。
僅か十七歳の少女に、むきになったり腹立たしく思った自分を密かに恥じた。

そしてふと、先ほどの自分が言い放った言葉を思い出す。

男女の営みは、神聖な行為だ…か…。

…果たして、自分のかつてのあの行為は、神聖な行為だったのだろうか…。


郁未は、不意にひとりの女性の面影を思い出していた…。


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