この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
「…貴方は変わらないわね。
…今も美しく無垢な少年のままだわ。
きっと身も心も…」
郁未は苦しげにそっとその手を外した。
そしてやや手荒い動作で、ウォッカの杯を煽る。
「やめてください。…貴女に…何が分かるのですか」
…分かりはしない。
青春を捧げたものを根こそぎ奪われ、貶められた気持ちなど…。
…いや、正義だと思っていたものが、悪であった気持ちなど…。
…自分が突き進んで来た道が、間接的には多くの国民の命を奪い、傷つけていったという事実を…。
…そして、何より…誰よりも愛したひとを亡くした哀しみを…。
郁未は唇を噛み締め、俯いた。
温かな優しい手が、郁未の髪を撫でた。
…昔のように、慈みに満ちた手であった。
「…郁未さん、貴方はどなたか大切な方を亡くされたのね…?」
咄嗟に振り返る。
「どうしてそれを?」
貴和子の黒い瞳に、息を呑むような哀しみの光が宿っていた。
「…分かるわ。…だって、私も同じですもの…」
…そうだ。貴和子は弟を亡くしたと言っていた。
自分が意に染まぬ結婚をしてまでも、助けたかった最愛の弟を…。
カウンターに置かれた郁未の手に、貴和子の白く美しい手が重なる。
「…私たちは、同じよ…」
「…貴和子さん…」
…郁未の凍えた心に、貴和子の静かな哀しみと慈しみと温もりがひたひたと染み入る。
郁未は、貴和子の手を強く握りしめた。
…もう、郁未の方が彼女の手を包み込めるほどに大きかった…。
「…今夜は…貴女と一緒にいたいです」
不器用で直裁な言葉に、貴和子は潤んだ瞳で優しく頷いた。
「…私もよ…郁未さん…」
…今も美しく無垢な少年のままだわ。
きっと身も心も…」
郁未は苦しげにそっとその手を外した。
そしてやや手荒い動作で、ウォッカの杯を煽る。
「やめてください。…貴女に…何が分かるのですか」
…分かりはしない。
青春を捧げたものを根こそぎ奪われ、貶められた気持ちなど…。
…いや、正義だと思っていたものが、悪であった気持ちなど…。
…自分が突き進んで来た道が、間接的には多くの国民の命を奪い、傷つけていったという事実を…。
…そして、何より…誰よりも愛したひとを亡くした哀しみを…。
郁未は唇を噛み締め、俯いた。
温かな優しい手が、郁未の髪を撫でた。
…昔のように、慈みに満ちた手であった。
「…郁未さん、貴方はどなたか大切な方を亡くされたのね…?」
咄嗟に振り返る。
「どうしてそれを?」
貴和子の黒い瞳に、息を呑むような哀しみの光が宿っていた。
「…分かるわ。…だって、私も同じですもの…」
…そうだ。貴和子は弟を亡くしたと言っていた。
自分が意に染まぬ結婚をしてまでも、助けたかった最愛の弟を…。
カウンターに置かれた郁未の手に、貴和子の白く美しい手が重なる。
「…私たちは、同じよ…」
「…貴和子さん…」
…郁未の凍えた心に、貴和子の静かな哀しみと慈しみと温もりがひたひたと染み入る。
郁未は、貴和子の手を強く握りしめた。
…もう、郁未の方が彼女の手を包み込めるほどに大きかった…。
「…今夜は…貴女と一緒にいたいです」
不器用で直裁な言葉に、貴和子は潤んだ瞳で優しく頷いた。
「…私もよ…郁未さん…」