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僕の美しいひと
第3章 じゃじゃ馬ならし
清良が銀の盆にアフタヌーンティーセットを載せ、静かに部屋に入って来た。
そしてサイドテーブルにそっと盆を置くと、恭しく膝を折って婉子に一礼し、郁未に尋ねた。
「お淹れいたしましょうか?」
郁未は頷いた。
「ああ、頼むよ」
お茶の淹れ方は先日教えたばかりであった。

用意されたお茶はクリームティーであった。
婉子の好みは家政婦には知らせていたが、清良には知らせてはいなかった。
恐らく、清良は家政婦に婉子の好みをきちんと聞いてお茶を用意したのだろう。
気働きが優れているのは、清良の多くの美点のひとつであった。

温められたミルクを先に濃い藍色のロイヤルコペンハーゲンの茶器に三分の一ほど入れ、ゆっくりとアッサムティーを注ぐ。
濃い目の淹れ方も申し分ない。
茶器とスコーンとクロテッドクリーム、アプリコットジャムの皿、スプーンもきちんと揃え、清良はもう一度膝を折り優美にお辞儀すると静かに部屋を辞した。

…完璧だ。
二カ月前まで浅草の貧民街に暮らしていた娘だとは誰も思うまい。
郁未は嬉しくなって思わず微笑んだ。

婉子が感心したように清良が去った扉の方を振り返った。
「…なんて綺麗なお嬢さんかしら…!
もしかして、ここの生徒さん?」
「はい。二カ月ほど前に引き取ったのです」
婉子はうっとりとため息を吐いた。
「そうなの…。見たことがないくらいにお美しいお嬢さんね…。それにとてもお淑やかで優雅だわ…」
「…そうですか…」
まさか普段は男勝りで乱暴な言葉を使っているとは露知らず…と、郁未は可笑しくて笑いをかみ殺す。

…ふと婉子が首を傾げた。
「あら…おかしいわねえ…私、あのお嬢さんのお貌、どこかでお見かけしたような気がするのよね…」
「え?…まさか…そんなことはないでしょう」
郁未はすぐに否定した。
婉子はもうずっと大磯で暮らしている。
たまに東京に来ても、会う人間は交流している上流階級の人間だけだ。
清良と婉子の接点など皆無な筈だ。
「他人の空似ですよ」
郁未の言葉に、納得いかないような不思議そうな貌をした。
「…そうかしらねえ…。私の勘違いかしらねえ…」


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