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僕の美しいひと
第5章 新たなる扉
その夜、清良は恐る恐る講堂の入り口に脚を踏み入れた。
窓辺にはいくつかのランプが灯され、広い講堂を幻想的な琥珀色に照らし出していた。

「清良?」
講堂の奥から声が掛かる。
振り返った清良の瞳に飛び込んで来たのは、郁未の黒い燕尾服の正装姿であった。
…思わず息を呑み、見惚れる。

郁未はさらりとした髪をきちんと撫で付けていた。
白皙の端正な貌に、ホワイトタイと黒の正装姿が良く映えている。
洗練されて優雅で…辺りを静かに制する気高いオーラのようなものが、漂っていた。

…そうだ。
嵯峨先生は、貴族のお坊っちゃまだったんだ…と、ぼんやり考える。
穏やかだが厳格で隙のない院長の姿とはまるで異なる美しい成熟した青年貴族の姿が、そこにはあった。


「…清良…。とても綺麗だ…」
美しい足捌きで、清良に近づく。
清良は緊張のあまり、思わずぎゅっと両手を握りしめた。
そんな清良を癒すように、優しい眼差しが微笑む。
「まるでお伽話のお姫様だ。
思った通り、良く似合う…」
「…笙子さんに髪も化粧もやってもらったんだ…」
…今夜、このドレスを着るように言われたのだと伝えると、笙子は何も聞かずに優しく支度をしてくれた。
髪を華やかに巻き真珠の髪飾りで結い上げ、紅を差してくれた。
「とても綺麗よ、清良さん」
そう微笑んで、真珠のイヤリングをつけてくれた。

郁未が胸に手を当て、優雅に一礼する。
そして、その美しい手を差し伸べた。
「…さあ、僕の最後の授業だ。
清良、僕とワルツを踊ろう…」

…雲が晴れ、月明かりが郁未の貌を照らした。
優しい…愛おしい男の微笑みが煌めいた。



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