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第9章 ご飯にしますか？お風呂にしますか？

　可愛い。いじらしい。もっぺん抱き締めたい。
　ダメだ、このままだと危ない……なんか喋って誤魔化そう。

「しかし、女の子は怖ぇなー。そんな事で、意地悪すんのか」

　笑ったるりちゃんの横に座って、お茶を淹れ直してやる。喉が乾いてたのか、お礼を言って一口飲んだ。

「……うん……」
「ま、それじゃあ、巧に八つ当たりしたくもなるよなー」
「……でも、ほんとはお兄ちゃん、悪くないのに……自分のせいにされても困っちゃうって、分かってるのに……」

　るりちゃんが、茶碗を両手で包む様にして、覗き込む。
　……まあなー。けど、それが分かってるるりちゃんがあれだけ爆発したってことは、相当辛いのが溜まってたんだろうなー。
　仕方ねーよ。下に八つ当たりされんのも、兄貴の役割の内の一つだ。

「そう言や、ヒメちゃんは、そういうの無いの？例えば、サインくれとか、紹介しろとか……長い付き合いだからとか？」
「ヒメは、お兄ちゃんが有名になる前からの友達なんです。お母さんが居たころ家に遊びに来て、お兄ちゃんに会った事も有るし……それに、ヒメは……」

　るりちゃんは一度言い淀んで、両手で握ってた茶碗を持ち上げて、飲み干した。

「……ヒメは、側にいて抱き締めてくれる人にしか、興味無いんです。あの子、淋しがりやだから……アイドルとか芸能人みたいな半分架空の遠い人は、絶対無理、好きになれない、って」
「そっか……」

　意地悪して来る同級生と違って、ヒメちゃんやるりちゃんにとっては、男は、顔でも名声でも金でもねーんだな。
　自分だけを見てくれるとか、側にいてくれるとか、そーいうのがいいのか……今んところは。

　そして、るりちゃんは今んところ、巧のしている仕事が、嫌い。

　巧の仕事が嫌いでこの態度ってことは、俺のこと知らねーって事だよな？
　物真似業界の人ですかってのは、本気で言ってたんだ……。

　自分の仕事が、言えなくなった。