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家に桜の木が有るんだけど花見しないかと彼女を誘ってみた話
第4章 桜の下の幽霊

「どうですか?」
「どう、って……」
「何か、こう……感情が湧いてきませんか?」
寝転んで、頭の上の桜を眺めて、考える。
「すみません、特には……」
隣に寝ていた僕の「師匠」はブランケットから抜け出すと、はーっと長い溜め息を吐いた。
そしてさっさと立ち上がり、こちらをじろっと見下ろした。
「桜の歌が欲しいって、言ってましたよね?」
「はい。みんな有るでしょ?桜の歌。……うち、まだ無いんもんで」
歌を作ることと、それを奏でて聞かせること。
それが今の僕の仕事だ。
「メロディーは、出来てるんですよね?」
「はい……って、今聴いてるじゃないですか、先生」
「先生って言うの、やめて下さい」
「じゃあ、敬語もやめて下さい」
「……帰りますよ?」
「すみません。もう口答えしません」
「口答えしない」は、師匠に助力を頼んだ時の約束の一つだ。
むくれた頬の向こうに見える耳には、桜色のイヤホン。
さっきから、インストの曲を聴いて貰っている。
「今回のオーダーは、桜の歌詞でしょ?」
「はい」
帰ると言いながらも帰らずに、希望を容れて少し口調を砕けさせてくれる。そんな素直じゃないところが、僕には可愛く、好ましい。
「期限が有るって言ってたような……」
「ええ」
「……なのに、人任せ?やる気有んですか?」
「有りますって、ほら」
半身を起こして、今朝までに考えた内容を打ち出した紙を差し出す。師匠はそれを眺めると、また溜め息を吐きながら、何故か眉間に手をやった。

