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お良の性春
第6章 大江戸炎情 乱交の喜び
 その日の夕暮れ近く、芝金杉橋の薬師(くすし)からの急な注文。
 手代も小僧たちも運悪く皆出払っていた。
 番頭に店を任せ、お良は注文の品を手に薬師の下に向かった。
 夕陽も沈み、薄暗くなり出したその帰り道、芝新明町の裏通りを足早に歩くお良は、居酒屋からよろけ出た酔客に当たった。
 その拍子に、酔客は転倒して道端のぬかるみにはまって衣類を汚した。
 運の悪いことは重なるもので、その転げた相手が質(たち)の悪い御家人風情の若侍。
 転げた若侍はぶつかったお良を見てほくそ笑む。
 見上げたお良は美形。
 江戸広しと言えども滅多に見かけない商家の若女将だからたまらない。

 「お侍様、申し分けございません」
 
 謝るお良の手をつかんで、グイッと引いた。
 近づいた侍の口からフーっと酒臭い息がお良の顔を撫で、鼻を突く。

 「どうしてくれる」
 
 侍に凄まれて、お良は声も出ない。
 とその時、店の中から、もう一人、連れの侍まで現れ、お良は二人に囲まれてしまったのだ。

 「ご勘弁ください」

 お良は道端に倒れこむように正座すると、その真っ白な手を地面について頭を下げた。

 「土下座なんてお前のようなお内儀には似合わない。さあ立って、酒でも一杯馳走してもらおうか」

 二人連れの酔っ払いがお良の手をつかんで店の中に引っ張り込もうとしたから大騒ぎ。
 思わずお良の口から「助けてーっ」と悲鳴が上がって、あたりに人だかりが出来た。

 「どこのお内儀か知らないが、運が悪いね。ありゃ質の悪いチンピラ御家人だよ」
 「可愛そうに、誰か助けておやりよ」
 「馬鹿言っちゃあいけねえ。あんな大小下げたお侍に手を出して切られでもしたらお陀仏だ」

 騒ぎが大きくなり、引っ込みがつかなった酔っ払いは、むきになってお良の手を引く。
 お良は顔面蒼白。必死に逃れようとしたが、大の男二人に両手をつかまれたら逃げるに逃げられない。

 万事休す・・・、と思ったその時、一人の侍が飛び出して来た。
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