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お良の性春
第3章   悶絶 寝屋の戒め四ヶ条
 早川家の屋敷には、母屋から伸びる廊下があった。
 その廊下の先の離れが、若い二人が初夜を迎えるために用意された寝屋。
 周りには庭木が茂り、新婚夫婦のプライバシーを守る絶好の立地。 

 月はすでに西の山に沈んで、辺りは墨を流したような闇夜。
 リーンリーンと鳴く鈴虫の音だけが響き渡って、先ほどまでの婚礼の喧騒が嘘のような静かな夜であった。

 湯殿を出たお良はおミネの持つ手蜀の灯りを頼りに寝屋へ。

 寝屋にはすでに真新しい布団が敷かれ、枕元の盆には、水差しに二つの湯飲み。その横にはチリ紙。少し離れた部屋の隅には行灯が燈る。
 嫁の恥じらいを和らげるための心配りか、行灯の灯は普段よりやや遠く置かれて暗い。
 お良にはその行灯の暗い灯りですら、眩しいほどに明るく思えた。

 こうして初夜を迎える用意万端が整えられ、お良は部屋の隅に座る。

 「それではお良様、しばしお待ち下されませ。これより首を長くしてお待ちかねの」
 ここまで言うとおミネは「オホホ」と短く笑って、「源一郎様のお迎えに行ってまいります」

 おミネは、にっこり微笑んでお辞儀をすると部屋を後にする。
 残るはお良一人。
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