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熟女美紗  情交の遍歴
第6章 軋むベッド 情交の館 
 久美の後ろからもう一人、若い男が現れた。

 「紹介するわ。前田さん。私の俳句仲間よ」
 「はじめまして。前田健です。俳句仲間と言うより先生の弟子です。皆さんよろしく」

 前田は一人ひとりに名刺を配った。
 名刺には「前田こころの内科クリニック院長」と肩書きにあった。

 (医者か、らしくない男だわ)

 幸一が居合わせたそれぞれを紹介した。
 久美の尖った視線が美紗に向けられていた。

 (捨てた亭主の女友達にも嫉妬するのかしら)

 美紗は久美の視線を不愉快に感じた。

 「あなた、どちらにお勤め」

 上から目線の久美を美紗は無視した。

 「二人ともわが社の社員だ」

 幸一が代わって答えた。

 「フフフフフフ、オフィスラブね」

 久美が蔑むように笑った。

 「お邪魔をしては申し訳ありませんから・・・」

 美紗は慇懃にお辞儀をすると絵里に目配せして、テーブルの上の食器を流しに運んだ。
 岸川も手伝って、三人は挨拶もそこそこに、幸一の家を後にした。

 「吉沢さん、随分なあわてようね。『妻と言う字にゃ勝てやせぬ』だわ」

 美紗にも幸一の狼狽振りが可笑しかった。

 「お二人にはこれから大切な話があるんでしょ。私は少しそこらを散策してから帰るわ」

 しばらく立ち話をした後、ようやくタクシーを拾った二人に別れを告げ、美紗は「海の見える丘公園」に向かって歩きはじめた。
 幸せそうにタクシーに消えた二人を見ながら、美紗は辰夫を思い出していた。
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