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熟女美紗  情交の遍歴
第7章  欲情の花火 医師 健 
 その日の午後、美紗は退職願をしたためて会社に向かった。
  幸一には会わなかった。
 (このビルを訪れることはもうない)
 幸一が美紗を騙そうとした訳ではない。
 それにしても、とんだ思い違いをしてくれたものだと美紗は呆れた。
 すべてを幸一だけに押し付けるわけには行かない。
 幕切れはドタバタしたが、幸一と過ごした時間は、アバンチュールな思い出に満ちていた。

 「去るものは追わず」そして「来るものは拒まず」だ。

 美紗の心には健の顔が浮かんだ。
 それにしても、自分の奔放さに自分で呆れた。
 幸一との別れの場で健と出合った。

 「渡りに船か・・・」
 
 美紗は可笑しくなった。
 その上、酔っていたとはいえ、裸身を晒したのだ。

 「まったく」

 自分で自分を呆れたものだと思った。

 半月ほどすると会社の人事課から退職の手続きについて連絡が来た。
 美紗の口座に二年分の年収ほどの退職金が振り込まれた。パートタイムには破格の金額だった。
 (何、これ、手切れ金のつもり)
 社長の意向だろう。
 高級コールガールとふざけた絵里の言葉を思い出した。

 (これが情事の代償か)

 美紗は憮然とした気分になった。
 しかし、正式に退職金として支払われたお金だ。貰っておくことにした。
 薬剤師の職はいくらでもある。勤めようと思えばすぐ見つかる。
 しかし、思いのほかの退職金を手にした美紗はしばらく仕事を休むことにした。
 そして、その休みを利用して健の招きに応じた。


 京都駅には健が出迎えてくれた。
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