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熟女美紗  情交の遍歴
第7章  欲情の花火 医師 健 
 「美紗さん、あなたは人の命を救った」

 いきなり健はそう言って美紗を驚かせた。
 健は吉沢夫妻のその後を話してくれた。

 「じつを言うと、久美さんは強い自殺願望に陥っていました。横浜に帰ると急に言い出したとき、とても一人では行かせられないと思いました。それであの日、僕がお供したんです」
 「そんなに深刻だったとは気づかなかったわ」
 「その上、たまたま訪れた自宅で皆さんに出くわした。四人いたことが幸いでした。もしあれが、美紗さんとご主人の二人だったら、美紗さんが包丁で刺し殺されていたかも知れませんよ」
 「まさか」
 「いやいや、大袈裟なことは言っていません。あの日、僕はご主人に病状を説明した上で、何はともかく奥様の話を聞いてやってくださいと指示しました。それで、ご夫婦は話し合ったんです」

 「それから」健は一旦話を切って美紗を見た。

 「ここからは本当にプライバシーに関わる話です。聞いたらそのまま忘れてください」
 「いいわ」
 「二人はその夜ベッドを共にしたんです。ところが奥様がパウダールームで何かを見つけたんです。たぶん、美紗さんの髪の毛か何かだと思いますよ。身に覚えがあるでしょう」
 「パウダールーム」

 美紗は絶句した。

 「やっぱり」

 健はまるで殺人事件を捜査する刑事のような目で美紗の顔をうかがう。

 「立ち話でお聞きするような話ではありませんわ」
 「ごもっともです。喫茶店も第三者の耳があります。なんなら、僕の診察室で」
 「そうね。ケンチャンの職場も見学できるし」

 健の案内で、京都駅から程近いオフィス街の一角にある「前田こころのクリニック」に向かった。
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