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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
晩御飯はちらし寿司にした。
錦糸卵を作りながら、澄佳は由貴子がカウンターキッチンに置いて行ったこのマンションの鍵をじっと見つめた。
帰り間際、由貴子は白い手に握りしめた鍵をそっとカウンターキッチンの上に置いた。
「…これ、柊司さんにお返ししておいてくださいね…」
カウンターの上には貝殻の形を模した大理石のキーケースがあり、そこに柊司は車の鍵やマンションの鍵を置いていた。
…まるでそれを知っているかのような行為であった。
「…でも…」
柊司が居ないのに了承して良いのだろうかと躊躇する。
由貴子がぽつりと話し始めた。
「…娘が入院して…暫くして柊司さんがお一人暮らしを始められたのです…。
柊司さんは自宅に一人になる私を心配してくださって…何かあった時にいつでも来て…と頂いた合鍵なのです」
湿度の高い美しい眼差しで、微笑いかけられる。
「…でも、もう私ひとりでここに来ることはありません。
だから、澄佳さんにお返しするわ」
…それは明らかに一抹の寂しさを滲ませた微笑みであった。
「…由貴子さん…」
由貴子は臈丈けた後ろ姿を見せ…そのまま振り返った。
「…柊司さんを幸せにして差し上げてくださいね…。
私の…大切な息子です…」
…その黒く澄み切った瞳には、息を呑むほどの寂寥の色が満ちていた…。
錦糸卵を作りながら、澄佳は由貴子がカウンターキッチンに置いて行ったこのマンションの鍵をじっと見つめた。
帰り間際、由貴子は白い手に握りしめた鍵をそっとカウンターキッチンの上に置いた。
「…これ、柊司さんにお返ししておいてくださいね…」
カウンターの上には貝殻の形を模した大理石のキーケースがあり、そこに柊司は車の鍵やマンションの鍵を置いていた。
…まるでそれを知っているかのような行為であった。
「…でも…」
柊司が居ないのに了承して良いのだろうかと躊躇する。
由貴子がぽつりと話し始めた。
「…娘が入院して…暫くして柊司さんがお一人暮らしを始められたのです…。
柊司さんは自宅に一人になる私を心配してくださって…何かあった時にいつでも来て…と頂いた合鍵なのです」
湿度の高い美しい眼差しで、微笑いかけられる。
「…でも、もう私ひとりでここに来ることはありません。
だから、澄佳さんにお返しするわ」
…それは明らかに一抹の寂しさを滲ませた微笑みであった。
「…由貴子さん…」
由貴子は臈丈けた後ろ姿を見せ…そのまま振り返った。
「…柊司さんを幸せにして差し上げてくださいね…。
私の…大切な息子です…」
…その黒く澄み切った瞳には、息を呑むほどの寂寥の色が満ちていた…。