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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
「…愛している。澄佳…。
君と別れてから、君のことを考えない日は一日たりともなかった」
「…片岡さ…」
突き放そうとする手を捕らえられる。
過去の恋の亡霊が、澄佳に静かに音もなく絡みつく。
「…ずっと君を愛していたよ。
君もそうだろう…?」
…私…私は…。

澄佳の目の前に立つ長躯の端正な容姿の男を見上げる。
…初恋のひと…。
…初めて愛したひと…。
苦しくて…切なくて…苦くて甘い恋の蜜を存分に味わわせたひと…。

片岡の貌が近づく。
そのまま抱き竦められ…吐息混じりで熱く囁かれる。

「…愛しているよ。澄佳…。
また、俺と一緒になってくれ」

…一緒に…。
まるで催眠術にかけられたように、瞼が重くなる。
…一緒に…。
このひとと…一緒に…。

顎を捕らえられ、睫毛が触れ合う距離まで迫られる。

…その刹那、澄佳の耳に鮮烈な声が蘇った。

…「…十年後、二十年後…ずっとずっとその先もずっと…。
僕は君の側で生きたい。
君の側で死にたい。
それが僕の真実だ」

…柊司さん…!

稲妻に打たれたかのようにはっと我に帰り、澄佳は渾身の力で片岡を突き放した。
思わぬ強い力に男がよろけ、眼を見張る。
「澄佳…?」

瞬きもせずに、ここではない何処かを見て澄佳は呟く。
「…そうよ…。
どうして今まで分からなかったの…?
…あのひとが変わろうと変わらまいといいじゃない…。
そんなこと…どうでもいいじゃない。
大したことじゃないわ…。
…私が愛していたら…。
それでいいじゃない…。
愛しているんだもの…。
…あのひとを…誰よりも…誰よりも…!」



片岡は息を呑んだ。
…澄佳は無垢な微笑みを浮かべながら、涙を流していた。
…透明な何の混じりけもない…穢れのない稀有な水晶のような…綺麗な涙を…。

片岡はそれを美しいと思った。
…魂が震えるほどに…美しいと思ったのだ。




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