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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
「…澄佳…」
澄佳がゆっくりと片岡を見上げた。
流れ落ちる涙を拭おうともしなかった。
黒曜石のようにしっとりと輝く瞳は、夢のように美しかった。

「…ごめんなさい。片岡さん。
でも…私たちの恋は…五年前に終わっていたのよ。
貴方が私に背中を向けた…あの日に…」
…あの日、澄佳の心に背を向け、部屋を出て行った片岡…。
…「君は俺には重すぎる…」
そう冷ややかに言い放った。
あの瞬間に、片岡は澄佳と二人の恋を手放したのだ。

片岡が苦しげに眉を顰め、口を開く。
「…手紙を読んだか?」
澄佳が長い睫毛を瞬く。
「…え…?」
「宮緒に託した手紙だ。
…読んでくれたか?」

遠い記憶を手繰り寄せる。
…東京から引っ越したあの日…。
宮緒が一通の手紙を澄佳に渡した。

…けれど…。
「…いいえ。読まなかったわ」
読まずに破り捨て、内房の海に捨てた…。
未練を残したくなかったからだ。

「…そうか…」
片岡は小さくため息を吐いた。
「…手紙に…俺はこう書いた。
俺は君が怖かった。
誰よりも愛していたが、怖かった。
何年経っても穢れることがない君に…畏れを抱いていた。
…君が一途に俺に尽くしてくれればくれるほど、怖かったんだ。
だからわざと、ほかの女と浮気した。
君が俺に愛想を尽かせば、いいとすら思っていた。
けれど自分からは、君を手放したくはなかった。
だから距離を置こうとしたんだ。
…妻が君を殺めようとして…俺はもう君の元には戻れないと思った。
すべては俺が元凶だからだ。
妻に付き添うことが、妻と君への償いだと…。
…けれどもし、君が今も俺を愛してくれているのなら、待っていてほしいと…。
何年かかるか分からないが、待っていてほしいと…。
そう書いたんだ」







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