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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
「…本当に送らなくていいのか?」
愛車のカフェラテ色の軽自動車に乗り込んだ澄佳に、片岡が窓越しに気遣わしげに尋ねる。
「東京まで一人で運転したことないだろう?
…やっぱり俺が送るよ」
澄佳は笑って首を振った。
「大丈夫です。カーナビがあるし…。
…それに…」

…何もかもが吹っ切れたような澱みのない透明な表情で片岡を見上げた。
「もう、誰にも頼らずにひとりで行きたいんです。
…あのひとのところに…」
片岡が眩しげに眼を細める。
「…そうか。
じゃあ、気をつけて」
澄佳が白い手を差し伸べる。
「片岡さんも、お元気で…」
凛とした所作に迷いは一切なかった。
片岡の手と握手を交わし…やがてその手は静かに離れた。
「…幸せになれ」
短い餞別の言葉に澄佳は嬉しそうに微笑い、頷いた。

静かに車は雨上がりの午後の道を走り出し、目の前の海岸道路に進んだ。
雲の合間から差し込む陽光に照らされ、車体は煌めいて見えた。
その車も、やがて片岡の視界から夢のように見えなくなった。
けれども、片岡は見つめるのをやめなかった。

「…愛していたよ、澄佳…」
その呟きは穏やかな潮騒に混ざり合い…柔らかく溶けて消えた。
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