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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
由貴子が澄佳を案内したのは、病棟の一番端にある硝子張りの談話コーナーの一角であった。
面会時間の終了間近の為か、ほかに人影はなかった。
由貴子はたくさんあるソファには腰掛けずに、一枚硝子の窓の外を見つめていた。

病棟の窓からは広々とした緑地公園が一望できた。
暮れかけた夕陽を受け水分を含んだ雨上がりの緑が、鮮やかに輝いて見える。

「…どうして?」
日本人形のように端麗な横貌を見せ、ぽつりと由貴子が呟いた。
「…はい…」
「…どうして瑠璃子にそんなに親切にしてくださるの?」
ゆっくりと振り返る貌にはやや寂しげな…頼りなげと言ってもいいような表情が浮かんでいた。

「…私は貴女に酷いことをしたわ。
貴女の心を傷つけた。
悪いのはすべて私…。
柊司さんは悪くない…。
…貴女を愛しているもの…。
…愛されている貴女に嫉妬して…貴女に酷い意地悪をした…。
なんて醜い女…。
許してもらえなくても当然なのに…なぜ?」

…どうしてだろう…。
澄佳は思う。
このひとを憎む気になれなかった…。

…それは…。
と、澄佳の唇が開かれた。
「…ひとは、どうしようもなく恋をしてしまうものだと、身に染みて分かっているからです…」
「…え…?」
由貴子の切れ長の美しい瞳が驚きに瞬かれる。
「いけないと分かっていて恋をしてしまう…。
それが人間です…。
…私も…咎められるような恋をいくつかしました…」

…片岡…宮緒…。
すべて、祝福される恋ではなかった。
けれど、恋をしてしまった。
…由貴子も、きっと…。

「だから…私に貴女を憎む資格はありません。
…それに…。
私は瑠璃子ちゃんが可愛いんです。
瑠璃子ちゃんには幸せになって欲しいんです。
…それが、柊司さんが一番喜ぶことだと思うから…」
澄佳は肩を小さく竦めて頭を下げた。
「…だから…本当は自分のためなんです。
ごめんなさい…」

由貴子がその白い両手で貌を覆い、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
澄佳が慌てて駆け寄り、支える。
「だ、大丈夫ですか?」
「…貴女ってひとは…どうして…そんなに…」

…そのあとは言葉にならずに、嗚咽に掻き消された。
澄佳はおずおずと由貴子の華奢な肩に触れ…そっと抱きしめた。

小さく…
「…ごめんなさい…」
震える声が聞こえた。

…由貴子の身体は、瑠璃子と同じように温かかった…。







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