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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
まるで少女のように柊司のもとへ真っしぐらに走り出した澄佳の後ろ姿を、由貴子はいつまでも見送っていた。

…なんて綺麗な後ろ姿なんだろう…。

私にも…あんな頃があったのかしら…。

ふと、追憶し…
…若い頃の仄かな恋を想い出そうとする。
若い頃、胸を病んで自宅療養が長かった由貴子には、小さな初恋の記憶があるのみだ。
その男の貌ももはや朧げであった…。
由貴子は苦笑する。

「やっぱり優しいお義母様だな、貴女は」
背後から聞き覚えのある声が響いてきた。
…振り返らなくても、分かる。

皮肉めいた言葉の中に潜む温かい声を…。
「…別に優しくなんかないわ。
もう吹っ切れたから、なんとも思っていないの」
ゆっくりと振り向きながら、背の高い飄々とした風情の若い医師を見上げる。

…森健斗が眩しげな眼差しで由貴子を見下ろしていた。
「…そう。吹っ切れた?完全に?」
「ええ、そうよ」
「よっしゃあ!!」
いきなりガッツポーズをされ、由貴子は形の良い眉を顰める。
「何ですか、大きな声をお出しになって…」
つんと顎を反らせる。
「病棟では静かに。
貴方はドクターという自覚が少し足りないようね」
叱られてもどこか嬉しげに健斗は笑った。
「気をつけます」
「…で?何のご用?」
「瑠璃子ちゃんがママを探していましたよ。
なんだかすごく楽しそうだった…」
由貴子の心がふんわりと明るくなる。
「すぐまいります」
健斗の傍らを通り過ぎようとする由貴子の白い指が、しなやかに男の逞しくも清潔な指に絡み取られる。

「…今夜、食事にいきませんか?」
少しだけ、上擦った声…。
「…なぜ?」
振り返らずに尋ねる。
「…お祝いです。瑠璃子ちゃんと貴女の…」
「瑠璃子は分かるけれど、私は何のお祝い?」
ゆっくりと振り返る眼差しが、男の熱い瞳に捕らえられる。
「…僕との交際初日記念日です」
由貴子は吹き出す。
「…貴方って本当に図々しい…」
健斗がにやりと笑った。
「それが僕の長所です」
肩を竦めて、男の指をさらりと離す。
「酔狂なドクターね。
…こんな…十二も年上の女に…」

…行きかけて、ふっと振り返り…
…でも…
と、呟いた。

「瑠璃子のお祝いならご一緒します。
…もうひとつは…考えておくわ…」

季節外れの秋桜のように清かに微笑う由貴子に、健斗は再びガッツポーズをしたのだった。




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