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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
次の日から、柊司は澄佳に挨拶代わりにメールを送るようになった。
「おはようございます。もう起きられましたか?
僕はこれから、大学で1限目の講義です」
トーストを齧っていると、着信のバイブが知らせる。

「おはようございます。
起きていましたよ。朝は仕事柄早起きなんです。
…講義…て、学生さん…でしたか?」

仕事柄か…何の仕事なのかな…。
そして、慌てて誤解を解く。
「いいえ、教える方です。
M大で英文学を教えています。専門分野は19世紀末のイギリス文学です…」

すぐにバイブが鳴る。
「…じゃあ、教授とか?」
思わず苦笑いする。
「そこまで偉くありません。まだ准教授です」

少し間隔が空いてレスが来た。
「…でもすごいわ…。
M大は名門大学だし…イギリス文学なんて…私は不思議の国のアリスくらいしか知らないもの…」

…可愛いな…と柊司は思わず微笑む。
「ルイス・キャロルをご存知なんて嬉しいです。
くまのプーさん、ピーターパン、ピーターラビット、メリーポピンズ…。
イギリス文学は優れた児童文学や童話によって豊かに構築されているのですから…。
オスカー・ワイルドもそうですよ。
彼はかつて童話作家でした。
幸福の王子は誰もが知っている有名な童話ですからね。
…あ、いけない。もう時間だ。
またご連絡します」

すぐにレスが来る。
「お気をつけて。良い一日になりますように」
短いけれど思いやり深い文章に、柊司は温かい気持ちになる。

ジャケットの内ポケットにスマートフォンを仕舞うと、柊司は手早くコーヒーを飲み干し、鞄を手に部屋を後にした。



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