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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
二人きりになると、澄佳は自分の行動に激しく後悔をした。
…あのひとと二人きりになるなんて…。

目の前の男を恐々と見つめる。

…背が高い男だ。
背丈は涼太と同じくらいだが、身体つきが違う。
漁師の涼太は逞しく分厚い胸板や頑丈な足腰をしているが、柊司のそれはすらりと伸びたしなやかな体躯と均整のとれたプロポーションだった。
…さながら、英国貴族の正装…黒い燕尾服を着せたら一番映えるような、優雅で美しい立ち姿であった。

…歳は三十を少し過ぎた頃だろうか…。
端正な貌立ちだが軽薄に見えないのは、柊司から漂う知的な雰囲気と静かな品位からだろう。
服装も派手ではないが、趣味が良く仕立ての良い…例えれば銀座の老舗テーラーで誂えたものを感じさせた。
磨き上げられたキャラメルブラウンの革靴には曇りひとつない。

…それに引き換え…。
自分は当然ながら仕事着だ。
七分袖のTシャツは清潔だが洗いざらしのものだし、デニムもエプロンもそうだ。
化粧すらも最小限だし、店に出ている時は調理や接客の邪魔になるのでイヤリングやネックレス、指輪も付けてはいなかった。

澄佳は自分が見窄らしいような、くすんでいるような…そんな劣等感にじわりと苛まれた。

…けれど、柊司はまるで旧知の人に会うかのように親しげに優しい笑みを浮かべ見つめて来たのだ。

堪らずにぎこちなく口を開いた。
「…なぜいきなりいらしたのですか?」
まるで咎めるような口調になり、慌てて言葉を添える。
「…驚きました。…まさか清瀧さんが来られるなんて…。
…私…こんな格好だし…せめてご連絡いただけたら…」
動揺していて訳の分からない言葉を並べる澄佳を、柊司は慈愛に満ちた眼差しで見つめ返した。

「…申し訳ありません。矢も盾もたまらずに、貴女のところに来てしまいました。
…貴女への自分の恋心を確かめたかったのです」

「…恋心を確かめる?」
澄佳は眉を寄せ、ふっと寂しげに微笑ってみせた。
すべてが腑に落ちたのだ。
「…ああ…。
…それではこれですっかり夢から醒められたのではないですか?
…現実の私は…こんな田舎の海の町の小さな食堂で働く地味な女です…。
…貴方が思い描いていた私は、どれほど美しかったのか分かりませんが…。
現実なんて…こんなものです…」







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