この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
澄佳の言葉を聞くと、柊司は不思議そうに眼を瞬かせた。
「なぜそのようなことを仰るのですか?
…澄佳さんは、僕が思い描いていた通りの方でした。
海辺の町で小さな食堂をきちんと切り盛りして…日々の生活を大切にしている清潔で美しいひと…。
…いや、想像より遥かに美しい方だったので少し戸惑っていますが…」
照れたように頭を掻く。

…このひとは、何を言っているのだろう。
完璧な紳士を装った新手の結婚詐欺か恋愛詐欺なのではないだろうかとの疑問すら浮かぶのに、この男から目が離せない。

「…そんな…今会ったばかりなのに…。
私の何が分かるのですか?」
…フリマアプリで交わした言葉、やり取り…。
私が残したものは商品の写真と…貌が分からないように撮った横顔の写真くらいなのに…。

柊司は愛おしげに店内を見渡した。
「このお店の佇まいから分かります。
お店の外観もお庭もきちんと手入れされていて、大切にされていて、いい匂いがして…。
…そうしたら、貴女が現れた。
僕がスマートフォンの画面の中からずっと思い描いていたひとと寸分違わぬ貴女が…。
これは奇跡だけれど、現実です。
…僕には…嬉しい奇跡と現実が同時に起こったのです」

…心地の良いバリトンがしっとりと鼓膜に馴染む。
こんなこと…信じては駄目だ。
辛い恋に泣くのは、もう…たくさんだ…。
…分かっているのに、目の前の魅力的な男から目が離せない。

…と、震えた唇は笑いを吹き出した。
くすくすと可笑しそうに笑い転げる澄佳に、男は不可思議そうに首をかしげる。
「何か可笑しなことを言いましたか?」
笑いを納めて、目尻の涙を拭う。
「…めちゃくちゃだわ、貴方…。
会っていきなりそんなロマンス小説みたいな台詞…。
流石は大学教授ね」
「…まだ准教授です」
少しだけむっとした表情が意外に可愛らしい。
「…めちゃくちゃな准教授だけれど…そうね、良かったら私と一緒にディナーはいかが?
…もっとも、賄いですけどね」

…男がほっとしたように笑った。
「喜んで。…澄佳さんの賄い、いつも羨ましかったんです」
澄佳は柊司に窓辺の椅子を勧め、キッチンに向かった。

…今はいい…。
この恋が、たとえまぼろしだとしても…。
今は、この夢のようなロマンスに…ひと時身を委ねてみるのだ…。

澄佳は窓辺に腰掛けた、端正な男をそっと振り返った…。

/332ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ