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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
柊司は澄佳の料理を屈託無く褒め称え、美味しそうに食べてくれた。
「とても美味しいです。
…鯵と鰯が新鮮ですね。アスパラもパプリカも味が濃くて甘い。
こんなに美味しい野菜を食べたのは初めてです」

素直な感想が嬉しい。
「お魚は涼ちゃんが、野菜は昔からお願いしている農家さんが毎朝届けてくれるんです。
だから…私の腕と言うわけじゃないわ」
「そんなことはない。良い材料があってもそれを生かす技術やセンスがなければ、美味しい料理は生まれません。
…それから、作るひとの愛情もね」
綺麗な箸遣い…舌も肥えているのだろう。
けれど嫌味のない語り口は、育ちの良さと教養の深さをさり気なく伝える。
それらが好もしい印象を与える。

「昔から、このお店を?」
澄佳は首を振った。
「このお店は祖母がやっていたんです。
…五年前に私がこの町に戻って来た時に…祖母が私にこの店を託したんです」
「それまでは、別のところに?」
話の流れで聞かれた質問に、澄佳の箸が止まる。

…今はもう…思い出すことも稀になった男の貌が不意に脳裏によぎる。
あの冷たい言葉も…。

…「…君だって納得していたことだろう?
俺がすぐには結婚できないことを…。
自分だけ、犠牲者みたいな貌をしないでくれ」

…男はさも煩わし気に、澄佳を見下ろしていた。

…あの日のこと…去って行く男の後ろ姿…。

眠れない日々…哀しい夢ばかり見ていた…。

澄佳の白い手が硬く握り締められる。
急に口を噤んだ澄佳に、優しく声が掛かる。

「…澄佳さん?」
「…ごめんなさい…。
…私…」
硬い表情で話出そうとする澄佳を穏やかに制する。
「いいんです。僕こそ、立ち入ったことを聞いてしまいました」
詫びられて、澄佳は首を振る。
心を落ち着かせるように、ゆっくり話し出す。

「…事情があって、数年離れていました。
戻ってから…私は少し引きこもりのような生活をしていて…。
祖母が私の好きなようにしていいから、店をやってみないか…と言ってくれたんです」

澄佳はこじんまりとした店内を、見渡した。
優しくいつも見守ってくれた祖母の愛が今も静かに息づいている店だ…。

「…私が作った料理を喜んでくれて必要としてくれるひとがいる…。
それを教えてくれたのがこの店です。
…私はこの店に救われました。
だからここは、祖母の私への贈り物なんです」






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