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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
泊まると決まってから、澄佳は柊司を店の奥に案内した。
奥は浴室と洗面所であった。
二階が澄佳の居住スペースらしい。
店部分を増築したのか、奥行きが意外に広かった。
柊司は古い造りだが清潔な浴室に案内された。

「…この辺りは温泉が出るんです。
だからうちも源泉を引いてあるんです」
確かに摺ガラス戸越しに仄かに硫黄の湯の香りが漂ってきた。
柊司は目を輝かせた。
「すごいな!自宅で毎日温泉が入れるの?贅沢ですね」
澄佳は照れたように笑った。
「…田舎だから、それくらいしか良いところはありませんけれど…。
熱ければ水道で薄めて下さい。
…それからこれ…。父の着なかった浴衣なんです。
祖母がきちんと管理していたから綺麗です。
嫌じゃなかったら、寝巻きにして下さい」

渡された浴衣は藍地に麻の葉模様が染められた古風な浴衣であった。
「良いんですか?」
澄佳は頷いた。

「祖母は和裁が得意で…たくさん浴衣を仕立てていました。
着ていただけたら嬉しいです」

澄佳の両親は澄佳が高校生の頃に、列車事故で亡くなったと、先ほど聞かされていた。
それからは祖母の家に身を寄せ、暮らしていたということも…。
その祖母も澄佳に店を託し、軌道に乗ったのを見届けたかのように、四年前に心筋梗塞で亡くなったということだった。

柊司は押し戴くように浴衣を大切に受け取った。
「ありがとう。喜んで着させていただきます」
澄佳は柔らかく表情を崩し、頷いた。
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