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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
その湯はとろりと円やかに肌に馴染んだ。
浴槽は贅沢にも檜が使われていた。
木の香りと硫黄の香りが混ざり合い、鄙びた温泉宿に来たかのように柊司はほっと寛げた。

…柔らかな湯気が満ちる中、ゆっくり湯に浸かっていると、硝子戸越しに遠慮勝ちな声が掛かった。
「…お湯加減はいかがですか?
熱くはないですか?」
硝子戸に澄佳の細っそりとした身体のシルエットが映る。
「ちょうど良いですよ。気持ちがいいです」

「良かった…。
…タオルと歯ブラシ…それからシェーバーをこちらにおいておきますね。
では、ごゆっくり…」
静かに告げると、澄佳のシルエットはふっと消えた。

…こまごまとした男の世話に慣れている所作であった。
澄佳の過去の男に、少しだけ嫉妬する。
…どんな男だったのかな…。
あの表情からすると、決して幸せな恋ではなかったようだけれども…。

…余計なことを考えるな…と柊司は苦笑し、そんな自分を戒めるようにざぶりと透明な湯で貌を洗った。

浴室の窓硝子に、激しい雨は音を立てて叩きつけていた。
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