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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
隣の自室に駆け込み、澄佳は思わず床に座り込んだ。
…まだ、胸がどきどきしている。
苦しくて…切なくて…けれどどこか甘やかな疼きが湧き上がってくるのを、認めざるを得なかった。

…また…またあんな想いをしなくてはならないのだろうか…。

澄佳は自分の身体を細い腕でぎゅっと抱きしめる。

…恋する男に、身も心も絡め取られ…雁字搦めになる日々が…。

澄佳にとって、恋は楽しいことよりも、苦しく切ないことが多かった。

特に…
男により身体を開かれ…酔わされ…溺れさせられ…その存在にすべてを支配されて…自分では何も考えられないようにさせられてしまうような…。

麻薬のように恐ろしく甘美で…けれどその喪失感は、身を刻まれるような辛さだった…。

…また、あの辛い日々が始まるのだろうか…。

澄佳はため息を吐いた。

柊司は、惹かれずにはいられない大変魅力的な男性だ。
…美しく、知的で、穏やかで、気品があり…何よりも優しい…。

あんなにも優しく誠実に愛を告白してくれた男は、柊司が初めてだ。

…けれど…。

澄佳は唇を噛み締める。

…あんなにも素敵な…何もかもが完璧な男性が…私に恋するなんて…あり得ない…。

仮に今、そうであっても…いずれは私に飽きて立ち去ってしまうのではないだろうか…。

…「…君のその貌を見るたびに、俺はいつも責められているような気がするよ。
君の愛は俺には重すぎる。
…別れよう。それがお互いのためだ」

あっさりと背中を向けた男…。
その姿を…私はまた、見送らなくてはならないのだろうか…。

降り続ける雨のように、澄佳の心は激しく乱れ…ただひたすら、ため息を吐くのだった。



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